空に消える心





恋次の元気がなんとなく空回りしているわけは、本人に直接聞いたわけではないけどわかっていた。
あれだけ騒がれていたんだ。
間違いなくルキアが朽木家の養子にもらわれたことが関係しているに違いない。
今も授業は終わったというのにただぼうっと窓の外を見つめている。
いつから奴はあんなに女々しくなったんだと、私はため息をついた。

それだけルキアの存在は大きかったということか。

不器用な人だから、きっとルキアには自分の気持ちは打ち明けていないんだろうと思う。
お互いきっと同じ気持ちなのに、選んだこの選択が、決して幸せいっぱいのものだとはわかっているはず
なのに、何故その道を選ぶんだろう。

愚問だ。

相手を想ってこその。

「れーんじ。」

見ていられなくなった私は彼に声をかけた。
聞こえていないらしい。
返事はおろか、少しの身動きすらやつはしない。

あぁしていることが今の彼の幸せだというのならそれでもいいかな、なんて。
女々しいのはどっちだ。いや、私女だけど。

そんなことを考えて、私は再びため息をつく。今日だけでも、やつのためについたため息の数は悠に十は
超えているような気がしてならない。
もう少しだけ、あの状態にしておいてやろうと思い、私も彼が見ているのと同じ空を見上げた。
雲に覆われた、単調な空。
今にも泣き出しそうな天気とはこういうのを言うんだろう。
まるで恋次の思いにシンクロしているかのような、そんな空。

あぁ、この雲みたいに、ルキアという存在が恋次の心を埋め尽くしていたのか。

そんな考えにいたって、何て私は愚かなんだと、そう思った。
少しでも恋次の心に私がいれば、とか夢みたけど、それは本当にただの夢だったんだ。
知らなかったといえば嘘になる。
だっていつだって彼は彼女を追っていたから。

どうすれば彼に好いてもらえるのかな、とか、こうしたら彼は喜んでくれるかな、とか、一方的な片思い
はとても楽しかった。都合の悪いことには全て目を背けたって何の問題にもならないから。

だから今も。

知らないふりをしてしまえば。

できるわけがないことを考えかけていた思考回路を自ら思いっきり断ち切った。
あんな恋次を見て、放っておけるくらいの強靭な心を私は持ち合わせていない。
こうして恋次のそばでただおせっかいをやいていることでしか私には私を守る方法がわからないから。


そうだ。

私のためなんだ、これは。

だってこのままじゃ恋次は。

私のことなんてきっとすぐに忘れてしまう。


「れーんじ。」

もう一度、先ほどと同じように声をかけてみた。
今度は彼の耳に届いたようだ。ゆっくりとこちらを振り返る。

「・・・・・・・・・・。」
「もう授業終わったけど。何古典的ギャグかましてんの?」
「・・・あぁ、そうか・・・。」

なんだか気の抜けた声でそういう恋次を見て、思ったよりも大変そうだということがわかった。
彼が、こんな状態になって、それでもルキアを羨ましいと思えてしまう。
ひどい、とかじゃなくて、羨ましい、と。

彼の中にどれだけ彼女がいたのか痛いほど伝わるから。

「・・・・・・泣きたければ泣けば?」

お決まりの台詞を試しに言ってみた。
案の定恋次は目を丸くして私を見つめている。当たり前か。

「なぁ、。」
「何?」
「ちょっと、」

たぶん次に何か言葉を言おうとしたんだと思う。口を動かしかけてやめた。
代わりに彼はちょいちょいと右手で、手招きした。
側に来いということなんだろうか。
ゆっくりと彼の元へ向かう。やっぱりだめだ。彼がどんなに傷ついているとわかっていても、彼と一緒に
いられるということだけで、私の胸は躍る。恋心とはずいぶん勝手なものなんだなと改めて認識した。

「何?」
「あー。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何。」
「明日には忘れてくれて構わねぇんだけど、」

こつん。

肩に何かが乗る。
舞い上がりすぎている私の勘違いでなければ、たぶん彼の、額が。

「・・・・・・悪ぃ。」
「いや別にいいんだけど。」
「こんな姿お前じゃなきゃ見せられねぇな。」

口元に笑みを含んだ状態で彼は確かにそう言った。
今度は私が目を見開く番で。

こうして、彼に頼って(っていうと怒られるかもしれないけど)もらえるのなら、今まで散々ライバル視
してきたルキアの存在も、あながち悪いもんじゃなかったのかな、なんて。

本当に恋心なんて勝手だ。

今こうしている間だけでも確実に彼の中に私がいてくれるのならもうそれだけで満足してしまう。
でもいつかきっと、またこんなんじゃ物足りなくなってしまうんだろうけど。
ルキアと同じものを。

無いものねだり。

だめだ、これじゃ綺麗すぎる。








嫉妬。








うん、これだ。ぴったり。

気づいてそれが何だかおかしくて気がついたら私は笑っていた。
もちろん、彼には気づかれないように、静かに1人で。




END

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何だこりゃぁぁあぁ!(聞かれても)
初BLEACH。お題なのをいいことにSSS。いいなぁ、BLEACH。
また書こう。

06年05月07日


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